宮古島の中心地、市場通りから北上する県道83号線に、
「大和井」と書かれた道路標識があります。
大和井で、ヤマトゥガーと読みます。
ガーとは、観光客の皆さんにはまるで聞きなれない言葉かと思いますが、
宮古島の言葉で井戸のことです。
そして、「ヤマト」という言葉もやはり耳馴染みがないかもしれませんが、
沖縄で暮らす私は、「ヤマトンチュ」、「ヤマト嫁」と
案外とよく耳にする言葉です。
大和井と書かれた道路標識
命の水を巡る島旅の第3回目に訪れた大和井(ヤマトゥガー)、
ヤマトゥの井戸、とはいったいどんな場所で、何を意味するのでしょうか?
大通りを行き交う車の喧騒は遠く、
今はもう遠い過去の出来事となった物語がそこにはありました。

まるで神殿の様な気品ある、石造遺跡・大和井

大和井への入り口の両側には、
大きな大きなガジュマルの木が枝を伸ばし、
目の前にはまるで庭園のような緑の空間が広がっています。
大和井への入り口
市内中心地とは思えぬほど深い緑のトンネルをくぐり、
真っすぐと続く飛び石の上を、大股に進むほどに緑は濃くなり、
やがて琉球石灰岩が緻密に積まれているのが見えてきました。
琉球石灰岩が緻密に積まれている場所
大和井は、国指定の史跡で、
宮古島の史書 『雍正旧記(ようぜいきゅうき)』によると、
大和井は1720年ごろ掘られたと考えられています。
その名の由来には諸説ありますが、
琉球王朝時代に首里王府や薩摩藩から派遣された役人など一部の者が使用でき、一般の人々には解放されなかったという説もあります。
精巧な石造りの遺跡
精巧な石造りの遺跡は、上から見るとまるで神殿の様にも見え、
やはりここは身分が高い人が使っていたことを物語っているような
特別感を大和井の端々から感じられます。

高い技法と安定感、豊かな水量、何もかもが特別な大和井

命の水を巡る島旅①と②で訪ねた来間ガーも、友利あま井も、
湧き口にたどり着くまで大変な苦労がありましたが、
大和井の石段は苔むしてはいますが、難なく上り下りができ、
広い足場や水辺に降りるための小さな階段にも安定感があります。
小さな階段
水辺近くには大きな石、そして上に行くほどに小さな石が積み上げられていき、さらに緩やかな円形を描くその壁の高さは約6mあります。
石積みに絡みついたガジュマルの根からも歴史深さを感じられます。
積み上げられた石
ガジュマルは大きく枝を広げ、木陰を作り涼を運び、
水辺に集う人々に小さな心遣いを見せているようで、
ほっとさせられます。
ガジュマル
大和井の近くには大川(ウプカー)と呼ばれる井戸もあり、
それはこの一帯が豊かな水源地であることを物語っています。
厳粛さと美しさと高い技法を感じさせる石積み、
そこを守るように枝を広げる大きなガジュマルからさえも溢れる気品、
豊富で良質な水量、何よりも安心感が大和井にはあります。

もう一つの井戸、庶民の井戸、ブトゥラガー

実は、大和井にはもう1カ所見ていただきたい場所があります。
入り口近くの左手側、ガジュマルの垂れ下がる気根の下に
ぽっかりと口を開けた空間があります。
ここはブトゥラガーと呼ばれる井戸で、
一般庶民が使用したと伝えられています。
ブトゥラガーと呼ばれる井戸
今にもガジュマルの気根に覆い尽くされてしまいそうな洞穴の入り口は、
のぞき込んでみるのも、ちょっと気後れしてしまいます。
洞穴の入り口
洞窟内に石段のみがほどこされ、壁には石積みの形跡はなく、
大和井に比べると、明らかに簡素な造りであることが感じられます。
そして、やはりここも、来間ガーや友利あま井のように
石段は激しく摩耗しているのでした。
大和井とブトゥラガー、ふた手に分かれていく歩む人々の姿を想像すると、
水汲みの苦しさと大変さと同時に、
すべてが身分によって決まる時代の生活や人生を思うと
何とも遣りきれない切ない思いに胸がふさがります。

大和井とブトゥラガー、二つの井戸の意味

大和井には、かんぬきの跡ではないかといわれるところが2カ所あります。
その厳重さは、役人専用の井戸であったことを裏付けているといわれ、
さらには門番がいたと考えられています。
かんぬきの跡ではないかといわれるところ
来間ガーにも、干ばつの年には井戸の番をする係の者がおり、
各世帯ごとに組み上げた水の回数をチェックしたと古老から聞きました。
井戸水を枯らさぬための、また住民みんなに平等に水が行きわたるための、
苦肉の策でした。
しかし、ここでの門番の意味は伝承から察するに、
階級社会ゆえの必要性だったのでしょう。
庶民らはそれを横目に見ながら、ブトゥラガーを行き来したのでしょうか。
今から約300年前、
この場所には身分制度による見えない線がはっきりとあったのです。
ブトゥラガー
まるで神殿の様で石造遺跡の素晴らしさを感じさせる大和井と
素朴な造りのブトゥラガーから感じられる庶民の暮らし、
その対比が胸にささるのと同時に、
どちらも美しさと強さ、歴史の重みを感じるのです。

スマートポイント

大和井(ヤマトゥガー)は、国指定の史跡で、見事な石造遺跡です。一説によると琉球王朝時代に首里王府や薩摩藩から派遣された役人など一部の者が使用でき、一般の人々には解放されなかったといわれています。

大和井のすぐ近くには、庶民が使用したと言われるブトゥラガーがあります。大和井と合わせて観光することで、より理解が深まります。

大和井や史跡、歴史的なスポットをより理解を深めたいなら、平良綾道(あやんつ)ガイドや、ひとときさんぽの「綾道(あやんつ)英雄物語ツアー」(有料)を利用するのをおすすめします。

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ここには、もう一つ、庶民が使用していたといわれる井戸があります。そこはもっと強烈に、線、というか、表と裏という歴史や階級を感じさせます。いつかそこについても書けたらいいな、って思っています。

Writer : 砂川葉子

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岐阜県出身、宮古島諸島のどこかの小さな島に在住。農業と民宿業、島興し業と並行してライター業にも携わる。

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