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[宮古島]パーントゥと主婦の
祈りと厄払いのサティパロウ

writer : 砂川葉子

2017.09.20

国指定無形民俗の「宮古島のパーントゥ」のひとつとして指定されている「野原のパーントゥ」は、サティパロウともいわれています。
サティは里、パロウは払う、で里払いという意味で、旧歴12月の最後の丑の日に、来訪神パーントゥの面をつけた少年とクロツグなどの植物で着飾った女性らの集団が「ホーイホーイ」と唱えながら集落内を練り歩き厄を払う伝統行事です。
サティパロウ
「やがてホーイホーイがあるよ」と北風が強い冬の日に小耳に挟むと、今年は誰がお面をかぶるか、法螺貝を吹くか、と友達同士で相談したのが懐かしいねと地元出身の男性が語ってくれました。
今年は、少年ではなく80代の女性が代役としてパーントゥの面をかぶるという前代未聞、異例づくしのサティパロウとなったものの、その思いは昔から変わることはありません。
パーントゥとこの地に生きる主婦らが、年を積み重ねることへの感謝の念と新しい年を迎える喜びで世界を満たします。

野原「サティパロウ」草装束の女性らに出迎えられる

午後5時半、集合場所だと教えられたニーマガーに着くと、祭祀に参加する女性達がまさに準備中で、遠目からもその女性達の姿にドキリとさせられました。
野原のパーントゥ
頭には細長い緑の葉っぱが大きく広がった草の冠をつけ、腰にも同じようなものが巻き付けられています。
ひと際目をひく、ビュンビュンと広がる細長い葉はヤシ科の植物のクロツグ、それに島ではキャーンと呼ばれる、蔓科の植物・仙人草が巻き付けられています。
そして、両手に握られているのはヤブニッケイの枝葉です。
ヤブニッケイの枝葉を身に着ける様子
カメラを抱え、子どもの手を引く私を見るなり、「おいで、おいで~」「一緒に歩いたらいいさあ」と女性達は笑顔で手招いてくださいました。
草装束の出で立ちに驚かされたものの、彼女達はこの地で暮らす普通の主婦達なのです。島で生きる女性達は、仕事をし、子を育てながら、集落の神に仕え、伝統行事を執り行うという大切な役割があるのです。

女性が代役、法螺貝はなし、前代未聞のサティパロウの始まり

女性達の準備も整い、いよいよ厳重に保管されていたパーントゥの面が取り出されるも、面をかぶる役の少年が現れません。
そこで急きょ、80代のキネさんがその代役を引き受けることになりました。
さらに、法螺貝を吹く役も太鼓を叩く役もいないとのことで、興味本位でついてきた私の娘と友達の子が太鼓役を仰せつかることになり、こうして前代未聞のサティパロウが始まりました。
パーントゥの面
穏やかな笑みを浮かべていたキネさんが、面を顔にあてるともうオバアではありませんでした。当たり前のようにパーントゥとなり歩き始めました。
背筋をしゃんと伸ばし、それは80代の肉体ではなく少年になったかのように、意外なスピード感でぐいぐいと坂道を上り、草装束の一行が黙々と続きます。
坂を上る一行
坂道の先にある、大嶽御嶽(うぷだきうたき)前の辻に隊列が達すると、傾きかけた太陽の光が燦々と降り注いでいました。

「ホーイホーイ」と静かに響く声が厄を払う

一行は太陽を背に受け、ツカサンマがこれからサティパロウを執り行うことを大嶽御嶽に報告をします。
太陽に背を向ける様子
そして、パーントゥを中心に置き、女性らは円を描き左回りに回り始めます。5周回ると、「うるうるうるうるうるうる」と唱えながら、枝を振りながら中心に向かって歩み寄り、パーントゥを取り囲みます。
やがて、円は静かに弾けると、再びパーントゥを先頭に隊列を組み、光の方へと歩き出しました。
円を描き回る様子
坂を下る一行
「ホーイホーイ」パーントゥ役のキネさんの静かな声に続いて後ろに続く女性らも「ホーイホーイ」唱え、その声に合わせてヤブニッケイの枝葉を打ち合わせます。ガサッガサッと葉が擦れ合う音が微かに響き、青い香りが立ち上ります。
一行は畑の一本道を、集落内を歩き続けます。途中、公民館や新築の家の厄を払いながら、その声と音と香りは途切れることはありません。
道を行く一行
再び回る様子
そして、辻では再び円を組み「うるうるうるうるうるうる」と唱える祈祷のような儀式が行われます。

1年の感謝を込めて、サティパロウの終わり、そして始まり

少年ではなく女性がパーントゥの面を被かぶり、太鼓を叩き、そして「ホーイホーイ」の声に続く法螺貝の音と「ぶんぶん」の声はなく、異例尽くしとなった今年のサティパロウ。
夕暮れを行く一行
集落の人らは何か願いを託すように道端から控えめに手を振り、遅れて現れた子どもたちが一人二人と列に加わります。西日を受け歩き続ける一行の影は長く伸び、やがて集落から外れたサトウキビ畑が広がる場所にたどり着きました。
「ムスルンミ」と呼ばれるこの場所が、厄払いの終着点で、ここで厄を捨てるそうです。
ムスルンミ
サティパロウの終わり
「今年もありがとうございました」
雲間に消えようとする太陽に向かって、深々と頭を下げると、女性らがヤブニッケイの枝を置き、草冠を外し、草の帯を解きます。
インタビューを受ける女性たち
キネさんもパーントゥの面を外すと晴れやかな笑顔をのぞかせたものの、報道陣がマイクを向けるとさっと面をあてました。
「無事に厄は払われたかねえ」パーントゥの言葉に誰もが頷き、女性らの笑い声が響きました、

サティパロウに込められた思い、パーントゥの祈り

日はすっかり暮れ、役目を終えた女性達は主婦に戻り、楽し気におしゃべりをしながら家路に向かいます。
家路
島尻のパーントゥとの関連性など、謎多き伝統行事ともいわれるサティパロウ。地元の女性は、疫病を払うために行われたのがサティパロウの始まりではないかとお話しくださいました。
自然が神様であった昔、太陽の力が弱くなる冬場は日の射さぬ暗い所から病気が生まれると考えられていたようで、冬を迎えるのにあたり健康で過ごせるようにと願ったのではないかとのことでした。
夕暮れの街
一日一日を生きること、年を積み重ねることの喜びは、共同体としての喜びでもあること、そんな営みと祈りをパーントゥと野原地区の主婦達はずっとずっと守ってきました。
それは、どんなことをしてでも子を守り抜く、この地域を守り抜くという切なる願いもあるようにも私には感じられました。
振り返ると茜色の夕焼け空がこの小さな集落・野原を包み込んでいました。

スマートポイント

  • サティパロウは、島尻のパーントゥとともに国指定無形民俗に指定されており、旧暦12月の最後の丑の日に行われる祭祀です。
  • サティパロウとは、サティは里、パロウは払う、で里払いという意味です。 旧歴12月の最後の丑の日に、来訪神パーントゥの面をつけた少年と草で装飾した女性らの集団が集落内を練り歩き厄払いをします。
  • 宮古島市の旧上野村の野原地区では、旧暦8月の十五夜に行われる「マストリャー」も国指定の無形民俗文化財に指定されています。

ライターのおすすめ

今回はわが子が地区外で女の子にも関わらず太鼓を叩くという思わぬ事態となってしまいましたが、本来は厳格な神事。お祭りやイベント感覚での参加ではなく、旅人も一緒に島の神事を大切にしていけたらと願います。

砂川葉子

岐阜県出身、宮古島諸島のどこかの小さな島に在住。農業と民宿業、島興し業と並行してライター業にも携わる。

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